夏の青空の空洞 ── 蝉時雨にまみれながら、おぼろげで儚い道標
もしかしたら、身体が重く沈む朝を感じていらっしゃらないでしょうか…?
もしくは、季節によって思い出されてまう情景や肌感覚があったりするでしょうか…?
ミンミンミン〜といった鳴り響くセミの声と、夏の暑さとともに思い出す光景が、私にも私なりにあります。
この近いけど遠い、ひとりひとり違う心象風景…
いつからか毎年、浮かんでくるまま静かに眺めて、ただじっと温度と呼吸を感じたりしています。
呑まれることなく、静かに眺める感覚に、いつしか近づいていけたのは、ほんらいの傾聴に近づこうと決めて、その先の先での産物だったように思えます。

あの日の光景から ──
光はあるのに手を伸ばしても届かず、声は聞こえるのに身体が反応しない ──
胸の奥で息が詰まり、肩や背中は鉛のように重く、汗が肌にべったり貼りつく
暑さと湿気が絡みつき、身体を動かすたび、全身が気だるく引き伸ばされる
遠くでセミがけたたましく鳴き、熱風が軒先に差し込む
小さな身体で、ただ座って佇むしかなかった自分…
親戚の木造の家の軒先、畳の匂い、蚊取り線香の煙 ──
それらは一見、安心をもたらすはずなのに、胸の奥でじわじわと、やるせのない疼く感覚が広がる
手を伸ばしても遠くある、名前を呼んだしても返事は届かないだろう ──
ぽつんとした距離感が、身体の奥にいつまでも残る
触れられない安心感のような感覚を忘れていく ……
身体はまだ小さく弱く、暑さで意識もぼんやりしながら、胸の奥でそれらをじっと抱え込む…
なかったような気にもなってくるし、もしかしたら、本当はなかったのだとも思えてきてしまう
ここに在るのは、確かな自分の手を握りしめた感覚だけは、これだけは確かに自分と伴に在る







視界に映るのは、とうもろこし畑の緑と、頭上に広がる蒼い空 ──
広く、どこまでも続く景色は、ほんとうなら解放感をもたらすはずなのに、取り巻く自分を空洞に感じさせる。
熱風にまぎれてやってくる、何かが自分の内側を奪い去っていくような感覚 ──
名前もつかない、まだ言葉にならない虚無感のような何かが、全身をゆっくり包み込む…
いつものように、遠くで聞こえる家族や親戚の笑い声
その輪に入れるはずなのに、自分だけがまるで別の存在に感じられる
まるで人間でないかのような、胸を締め付ける孤独なのか…
触れられず、返事も届かない日々が積み重なって、心のうみがじわじわと広がって沁み込んでいく…
心臓の裏あたりに感じられているような小さな空洞が、暑さや風
蚊取り線香の煙、セミの声に反応して広がっていく感覚…







肩や背中の重み、胃の空虚、呼吸の詰まり──全身がじわじわと…
手のひらや足先、指先まで浸かってくるけど、声も涙も出ない。
身体の一部が自分の意思とは別に重くなり、熱と独り感に絡め取られる
風がとうもろこしの葉をサワサワと揺らすたび…
熱気と匂いが肉体に絡んで、ただ気だるく無力な感じがしてくる ──
目の前の道路は長く、どこまでもスラッと伸びている
歩き出すことはできるのに、気持ちは重く、熱と虚無に絡め取られ、どこにも行かずにらせん状に回っている…
セミの声は残響して、声にならない声をさらに際立たせる
息は浅く、心臓は沈むように跳ね、胸の奥でぽっかりと広がっていく
小さな身体の端々にまで、穴みたいなところからの空気が沁みていって、存在が揺らぐ







ただ、為す術もなく、じっとしている ──
微かな風や煙、光や匂いの残響が胸の奥で、かすかな生命の糸を探そうとしている感じをつくる…
らせん状に絡まる暑さ、虚無、kodoku ──
かすかな存在の感覚を、生命の糸をたぐるように本能的な感じから触ろうとする
ずっと置いてきぼりにされる感覚が募るしかない中でも、それでも…どこかで、脈打っている。
時間の感覚はゆるやかに溶け、夏の熱風と蝉時雨が身体を包んで、胸の奥の空洞をさらに広げる。
蚊取り線香の煙、とうもろこし畑の緑、青空、長く伸びる道路──
爽やかな空気のはずが、すべてが絡まり、どんよりした揺れを生む…
── 暑さ、気だるさ、逃げられない無力をひしひしと感じながら…







ずっと遠くの奥の奥から出てきた、かすかな感覚が、唯一の道標のようになり、これだけは絶対に話すまいと心のうちで必死になっている。
この道標は、両手を宙にまさぐるかのようにし続けて、溺れながらも崩れながらも、ただ本能的な欲求でつかみ始めたものだった。
その道標は、触りかけたころには、到底、カタチなどなかった、もわもわしたもの
ただ「ここに何かがある」と震えながら握った感覚が、次第に胸の奥で命綱のクモの糸のように変わっていったような気がする
ふとした表紙で今にも切れてしまいそうな、じつに細々していたクモの糸…
それでも確かに、ただ中でも繋げてきてくれて、告げてくる本能の糸だった
誰かに与えられたものではなく、奥底からじわりじわりと手繰り寄せたようにも感じている
いや、そう感じたのは後になってからかもしれない
当時はただ、すぐに埋もれて消えていく、おぼろげ感覚を、離すまいと歯をギリギリと噛み締めながら、目を凝らしていた
いつも心のなかで「ギリギリギリ…」と、軋む音が根強く聞こえるかのようになってきていた
それが随分と随分と年月やいろんな場面を経て、本当にじわりじわりと…
「きっと、生きていてもいい」という囁きに重なりそうに、ふっと感じても、それでも遠回りして回り続けた
螺旋の中心で見失いそうになったとき、その道標は天の岩戸(あまのいわと)のように感じられる…
それでも、誰にも見せまいとする暗闇の奥で、ほんのわずかに揺れながら、自分を呼び戻す…
そんな、あの日だった







もし、よろしければ…
今回の記事を読んで、心に生まれたものを、お手すきの際に教えていただけませんか?
一度ゆっくりと深呼吸をしてから…
ご自身のペースで、心に浮かんだ感じを、少しずつでもお聴かせいただけたら嬉しいです。
いただいたお声は、毎回、隅々まで目を通して、これからの発信や対話を、より深く豊かにしていくための大切な糧として活用させていただきます。


ご精読いただき、誠に有り難うございます。
Despair 傾聴デザイナー/本質追求型・密接派クリエイター
(Despair: 絶望 失望 落胆 失意 自暴自棄 憂鬱など …)
絶望もまた、声を持っている。
マイノリティとマジョリティの狭間で揺れながら生きてきた人生のなかで、「声にならない声」に静かに耳を傾ける旅を、心の底から選びました。
「きれいごと」の言葉がナイフのように刺さる痛みを知っているからこそ、安易なアドバイスではない、心の深みに降りていく関わり(Deep Listening)を大切にしています。
2016年、真摯な傾聴の場「ほんわか倶楽部」を創設。
心の深みに寄り添う傾聴セラピーに、一歩でも近づきたくて、試行錯誤の日々を重ねています。



