ひとりで静かに揺れる、心の声を聴く
「誰かといても、ひとりぼっちだと感じること、ない?」
小さな声で、ぽつんとそう聞かれたとき、返す言葉が見つからなかった。
たしかにそこに誰かがいる。声もある。笑い声さえある。
けれど、ふとした瞬間に、世界から置いていかれたような気がする。
肌の奥、胸の内側、誰にも触れられたことのない部分が、わずかに震えている。
ひとりきりの部屋の静けさより、誰かと過ごす時間の中で感じる“ひとり”のほうが、ずっと重く、切ない。
まるで、心の奥がゆっくりと沈んでいくような。
静かだけれど、深い湖底に吸い込まれるような。
その感覚に、名前はつけられない。
「どうしたの?」と聞かれても、説明できるような理由がない。ただ、冷えていく感覚だけがある。
あたたかさに手が届かないまま、時間だけが過ぎていく。
こんなふうに思うのは、自分だけだろうか。
こんな気持ちを抱えたまま、生きていてもいいのだろうか。
自問しても、答えはどこにも見つからない。
それでも、その奥で、かすかに声がしている。
「ここにいるよ」
「まだ、終わっていないよ」
「本当の声を、誰かに聴いてほしいよ」
その声は、ごく小さくて、何かを責めたりはしない。
ただ静かに、そこにあるだけ。
たとえば、月のない夜に微かに立ちのぼる湯気のように。
凍える朝に、指先がふっと温まる瞬間のように。
ひとつの風景が、すべてを語らずとも、なぜか涙がにじむ、そんなときのように。
誰にも言えなかったこと、言葉にならなかった想い、見せたことのない弱さや、傷の跡。
それらを自分だけは知っている。
聴こうとするなら、耳をすませば、かすかに届くものがある。
ひとりの中にある静けさは、何も語らないように見えて、実はとても多くのことを語っている。
それは、「もう大丈夫」と言うための静けさではなく、「まだ終わっていない」ことを伝える、小さな呼吸のようなもの。
誰にも届かなくてもいい。
聴こえないままでも、責めなくていい。
でも、もし――
耳を澄ませたその先で、まだ揺れている心の声に出会えたなら……
「ここにいるんだね」
そう静かに受け止めることから、何かがほんのすこしずつ、動き始めるかもしれない。